密教において大日如来の化身とされる不動明王は、煩悩退散、除災招福、病気平癒、疫病退散、家内安全、国家安泰といった現世利益のご利益があるとして昔から多くの人々に信仰されてきました。
不動明王は怖い顔をしているので、正面から拝むと怒られそうな気がしますが、人々の心の迷いや煩悩を取り除き、全ての人を救ってくれるありがたい仏さまです。
そして、京都市内には、不動明王を祀るお寺がたくさんあります。
今回の記事では、私が実際に訪れてお参りをした不動明王を祀っているお寺を紹介します。
実相院
京都市左京区の岩倉に建つ実相院は、不動明王を本尊としています。
実相院に祀られている不動明王は、鎌倉時代に造られたと伝わる木造立像です。
代々皇族関係者が入寺した門跡寺院(もんぜきじいん)である実相院は、岩倉御所とも呼ばれています。
ピカピカの床に映り込む床もみじや床みどりも人気です。
狸谷山不動院
京都市左京区の一乗寺にある狸谷山不動院は、厄除け、交通安全の祈願で知られていますが、その名のとおり不動明王を祀っています。
タヌキダニのお不動さんの愛称で親しまれる狸谷山不動院の境内には、江戸時代の剣豪宮本武蔵が修行をしたと伝わる修行の滝があります。
修行の滝には小さな不動明王が祀られています。
宮本武蔵は、吉岡一門と一乗寺下り松で決闘する前に狸谷山不動院の滝に打たれ、つにい不動尊の右手に持する降魔(ごうま)の利剣の極意を獲得したとされます。
現在は沐浴できませんが、滝の水で、身、口、意を浄化して不動尊の活力を授かることができます。
真如堂
同じく京都市左京区の真如堂の本堂にも不動明王が祀られています。
平安時代に陰陽師の安倍晴明が不慮の死に遭った時、家に祀っていた不動明王像が閻魔大王に直談判し蘇生したと伝えられています。
その不動明王像は、安倍晴明が亡くなった後、真如堂の本堂に祀られるようになりました。
聖護院
京都市左京区の聖護院の本堂である不動堂にも、本尊として不動明王が祀られています。
平安時代後期の作と伝えられる重要文化財の不動明王像は、何度も火災を潜り抜け今に伝えられています。
また、不動明王像の左には、本山修験宗(ほんざんしゅげんしゅう)の宗祖である役行者(えんのぎょうじゃ)座像、右には、第5代天台座主で天台寺門宗の始祖である智証大師円珍座像も安置されています。
神護寺
京都市右京区の高雄の神護寺は、明王殿に不動明王が祀られています。
紅葉が美しい神護寺は、秋に参拝するのがおすすめです。
その際は、明王殿の不動明王にも祈願しておきたいですね。
大覚寺
京都市右京区の嵯峨野の大覚寺に建つ五大堂には、不動明王、降三世明王(ごうざんぜみょうおう)、軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)、大威徳明王(だいいとくみょうおう)・金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)の五大明王が祀られています。
大覚寺の五大明王は、弘法大師空海が唐から伝えたものです。
空海は、弘仁2年(811年)3月11日に利民安世、五大明王秘法を修し万民に恵みを与えたと伝えられており、大覚寺は、日本最初の五大明王祈祷御所とされています。
仁和寺
京都府右京区の仁和寺の境内北側には、水かけ不動尊が祀られています。
仁和寺の水かけ不動尊は、もとは一条戻橋に祀られていました。
昔、大洪水で流れ、復旧時に橋の下から取り出されましたが、いたずらする人がいたため、「仁和寺に帰りたい」とのお告げがあり、仁和寺に祀られるようになったとのこと。
所願成就や幼児の病気平癒に特に霊験あらたかということです。
清浄華院
京都市上京区の京都御苑の東にある清浄華院(しょうじょうけいん)の境内に建つ不動堂には、身代わりのご利益で有名な泣不動尊が祀られています。
秘仏のため実物を拝むことはできませんが、堂内には半丈六(140cm)の不動明王坐像が安置されています。
陰陽師の安倍晴明ゆかりのお不動さまで、その隣には安倍晴明の像も祀られていますよ。
六角堂
京都市中京区の六角堂の境内には、石像と木像の不動明王が祀られています。
2体のお不動さまにしっかり祈願しておけば、苦しみの身代わりになってもらえそうですね。
青蓮院
京都市東山区の青蓮院(しょうれんいん)には、国宝の青不動が祀られています。
青蓮院の青不動は、三井寺の黄不動、高野山の赤不動とともに日本三大不動画の一つとして篤く信仰されています。
制作年代は、11世紀半ばとされ、もとは国家の安泰や皇室の安寧を祈って最高の腕を持った絵師により描かれ朝廷の中で祀られていました。
その後、平安時代末期に皇室と関係が深かった青蓮院に下賜されました。
岩の上に鎮座した青不動は火焔を負い、片方の目は天を、もう片方の目は地を睨んでいます。
六波羅蜜寺
京都市東山区の六波羅蜜寺には、境内の北側に建つお堂の中に水かけ不動が祀られています。
六波羅蜜寺の水かけ不動は、源義経が平家討伐に向かう前に戦勝を祈願したと伝えられており、勝運のご利益を授けてくれると信仰されています。
また、堂内には銭洗弁財天も祀られていますよ。
智積院
京都市東山区の智積院(ちしゃくいん)の明王殿にも不動明王が祀られています。
智積院の不動明王は、興教大師覚鑁(かくばん)ゆかりの紀州根来寺から伝来したと言われる麦つき不動です。
近畿三十六不動尊霊場第二十番札所にもなっていますよ。
法住寺
京都市東山区の法住寺の不動堂には、後白河法皇の念持仏の身代り不動明王が祀られています。
木曽義仲が法住寺殿を焼き討ちした際、木曽勢の放った矢が天台座主の明雲に当たりました。
その時、後白河法皇が、不動明王が明雲となって身代わりになってくれたと言ったことから、すべての災厄の身代わりになってくれる不動明王として多くの人々に信仰されるようになりました。
同聚院
京都市東山区の東福寺の塔頭(たっちゅう)の同聚院(どうじゅいん)には、五大堂に不動明王が祀られています。
「土」と「力」を縦に並べた文字に不動と書いて、土力不動(どうりきふどう)と読みます。
藤原道長が夢の中で不動明王より「土」と「方」を縦に並べた印を授かったと伝えられており、土力不動は、古くから土地の守護神として崇敬されてきました。
他にも、十万の眷属(けんぞく)を従えて衆生救済をする十万不動(じゅうまんふどう)、十方あまねく不動の力を照らす十方不動などとも呼ばれています。
火除けや厄除けに霊験あらたかとの信仰もあり、年明けには「土」と「方」を縦の並べた字を書いた屋守護札が配布されます。
東寺
京都市南区の東寺は、御影堂(みえいどう)の裏側に不動明王が祀られています。
弘法大師空海作で、空海の念持仏と伝えられています。
空海が入定のため高野山に向かった際、不動明王が蓮華門まで見送ったとの伝説が残っています。
秘仏のため直に拝むことはできませんが、現在でも多く人々の信仰を集めています。
醍醐寺
京都市伏見区の醍醐寺に建つ不動堂には、不動明王を中心に5体の明王が安置されています。
不動堂の前は護摩道場となっており、柴燈護摩が焚かれ、世界平和など様々な祈願が行われます。
北向山不動院
京都市伏見区の鳥羽に建つ北向山不動院には、鳥羽上皇ゆかりの不動明王が祀られています。
鳥羽上皇が病気になった時、興教大師が祈願したところ不動明王が現れて加持祈祷をし、上皇の病気が治ったそうです。
それに喜んだ上皇は、鳥羽離宮内に興教大師を開山として北向山不動院を建立し、大師が刻んだ不動明王を本尊としました。
このお不動さまは、一願不動と呼ばれ、一つだけ願い事をかなえてくれると信仰されています。
1月16日の一願の護摩に焚かれる柴燈護摩(さいとうごま)の煙にあたると願いがかなうともいわれていますよ。
なお、北向山不動院は、当院の北の方角にある都を守る王城鎮護のため、その名のとおり、北向きにお堂が建っています。
以上で紹介したお寺が、京都市内で有名な不動明王を祀っているお寺です。
不動明王は、天台宗や真言宗のお寺に祀られていますから、不動明王にお参りをしたい方は、これらの宗派のお寺にお参りをすると良いでしょう。
他の宗派のお寺にも不動明王が祀られていることがありますが、天台宗と真言宗のお寺に参拝するのが確実ですね。