お寺で見かけるものに鐘があります。
正式には梵鐘(ぼんしょう)といいます。
梵は、宇宙の全てをさすブラフマンが由来で、お寺の鐘は楽器として使われる鐘と区別し、神聖なものであることから梵鐘と呼ばれるようになりました。
インドのお寺では、木の板を鳴らしてお坊さんに時間を報せていたのが、仏教が中国に伝来して青銅器の鐘を用いるようになり、それが日本の寺院にも伝わりました。
かつては、朝と夕に人間の持つ煩悩をしずめるため108回ついていましたが、現在は36回や18回に省略され、梵鐘の音を108回聞けるのは大晦日の除夜の鐘くらいです。
さて、その梵鐘ですが、神護寺、妙心寺、平等院には、天下の三鐘と呼ばれる梵鐘が伝わっています。
神護寺
京都市右京区の高雄に建つ神護寺には、明王殿と和気公霊廟の間にある石段上に鐘楼が建ち、そこに国宝に指定された銅鐘が吊るされています。

神護寺の鐘楼
外からだと全く中の様子がわかりません。
音に聞きし神護寺の梵鐘は、貞観17年(875年)の鋳造で、高さ147.6cm、口径80.3cmの大きさ。
鐘の四面の銘文は、橘広相(たちばなのひろみ)が序詞、菅原是善(すがわらのこれよし)が銘、藤原敏行の書。
いずれも、平安時代の一流貴人学者であることから、三絶の鐘銘(しょうめい)という。
約1200年前に高雄の山の上まで運ばれた梵鐘ゆえか、それを吊るす鐘楼からも歴史の重みをずっしりと感じます。
妙心寺
妙心寺の梵鐘は、698年の銘を持つ日本最古のものと伝えられています。
他に奈良の当麻寺(たいまでら)や法隆寺の鐘もかなり古いものとされてますが、正式な鋳造年がわかっていません。
その日本最古の梵鐘を見られるのは、法堂(はっとう)の中。

妙心寺の法堂
もとは現在の桂川に架かる渡月橋付近にあった後嵯峨上皇の亀山殿内の浄金剛院にあったもので、『徒然草』の二百二十段にも登場します。
その箇所を以下に記しておきます。
凡そ、鐘の声は黄鐘調(おうじきじょう)なるべし。これ、無常の調子、祇園精舎の無常院の声なり。西園寺の鐘、黄鐘調に鋳(い)らるべしとて、数多度(あまたたび)鋳かへられけれども、叶はざりけるを、遠国より尋ね出されけり。浄金剛院の鐘の声、また黄鐘調なり。
黄鐘調は、現代では「おうしきちょう」と読み、雅楽の六調子のひとつです。
以下のページで、黄鐘調がどのような音か聴くことができますよ。
涼し気な音色で、妙心寺に伝わる浄金剛院の鐘も、吉田兼好が生きた鎌倉時代にそのような音を朝夕に響かせていたのでしょうね。
平等院
京都府宇治市の鳳凰堂で有名な平等院は、深みのある朱色の鐘楼に梵鐘が吊るされています。

平等院の鐘楼
ただし、これは模造品なので、昭和47年(1972年)に国宝に指定された梵鐘とは異なります。
とは言え、原型通りに復元されているので、見た目は本物と同じ。
高さ146.0cm、口径123.0cmの大きさ。
平等院の梵鐘は、「姿は平等院」と評されるように見栄えが美しく、表面には鳳凰や天人の彫刻が施されています。
また、梵鐘の上には、2頭の龍が逆さまになり鐘に吸い付いているような龍頭も見られます。
平等院に参拝すると、模造品だけでなく平安時代に鋳造された本物の梵鐘も、鳳翔館内で鑑賞できます。
だから、鐘楼の前に立ち、「これが噂の平等院の梵鐘か」と、まじまじと眺める必要はありません。
以上、天下の三鐘でした。