鬼女の怨念がこもった鉄輪の井戸

京都市下京区の鍛冶屋町(かじやちょう)には、怨念がこもっていると伝えられている鉄輪(かなわ)の井戸があります。

怨念がこもっている井戸には、あまり近寄りたくないのですが、怖いもの見たさというのもあって、実際に鉄輪の井戸を見に行ってきました。

謡曲「鉄輪」に登場する鬼女

鉄輪の井戸に怨念がこもっているといわれているのは、謡曲の「鉄輪」に登場する鬼女と関係があります。

平安時代、下京に住む女性が、自分を捨てて後妻をもらった元夫を恨み、貴船神社に丑の刻参りをしました。

すると、「鉄輪を頭にのせ、3本の脚に火を灯し、怒りの心を持てば鬼になれる」というお告げを受けました。

ちなみに鉄輪とは、火鉢においてヤカンや鍋を火にかけるために使う鉄の輪に3本脚が付いた道具のことです。

これをひっくり返して頭にかぶり、3本の脚に火を灯している姿を想像すると怖いですね。夜に出会いたくありません。

それ以来、元夫は、悪夢にうなされるようになったため、陰陽師(おんみょうじ)の安倍晴明に占ってもらうと、それは先妻の呪いで、今夜、夫婦の命は尽きるとの見立てが出ました。

そこで、晴明が夫婦の人形(ひとがた)を作り、祈祷を始めます。

そうしていると、鬼女となった先妻が現れ、夫を連れ去ろうとしましたが、晴明の呪力によって追い払われ、鬼女は逃げていきました。

以上が、謡曲「鉄輪」の要約です。

なお、鉄輪の詳しい内容は、「the能.com」というWEBサイトの以下のページに載っていますので、ご覧になってください。

縁切り井戸

京都市下京区の堺町五条を北に進み、1本通りを過ぎたあたりに、「鉄輪跡」の石柱が立っています。

その石柱の近くには、人の家のような扉があります。

鉄輪の井戸の入口

鉄輪の井戸の入口

この扉を開けて、狭い道を進むと命婦稲荷(みょうぶいなり)という小さな神社が建っています。

命婦稲荷

命婦稲荷

鳥居をくぐり境内に入ると、正面に小さな本殿があり、右に井戸があります。

この井戸が、鉄輪の井戸です。

鉄輪の井戸

鉄輪の井戸

説明書によると、この井戸は、鬼女となった先妻が住んでいた場所と伝えられており、また、一説によると、先妻がこの井戸に身を投げたともいわれています。

このような言い伝えから、鉄輪の井戸は、縁切り井戸とも呼ばれ、この水を汲んで相手に飲ませると悪縁を断つことができると信じられるようになったそうです。

以前は、ここに鉄輪で造られた塚があり、鉄輪塚と呼ばれていたとのこと。

境内には、手水鉢もありました。

手水鉢

手水鉢

注意書きに「この手水鉢の水を飲んだり、お持ち帰りにならないで下さい」と書かれていました。

衛生上の問題で飲み水に適さないということなのか、鬼女の祟りがあるということなのかはわかりませんが、飲まない方が良さそうです。

陰陽師-生成り姫

謡曲の鉄輪は、安倍晴明に追い払われた鬼女がその後どうなったのかわからない、何とも後味の悪い終わり方をしています。

この物語に新たな結末を設けているのが、夢枕獏の「陰陽師 生成り姫(なまなりひめ)」です。

陰陽師の中では、元夫を藤原済時(ふじわらのなりとき)、先妻を徳子、後妻を綾子としています。

済時に捨てられた徳子は、貴船神社に丑の刻参りをし、鬼女となって、後妻の綾子の首をねじりとって殺してしまいます。

それに恐怖した済時が、安倍晴明のもとに自分の命を助けて欲しいと懇願しに行きます。

晴明は、その夜、友人の源博雅とともに済時の屋敷に訪れ、彼を助けます。

そして、鬼となった徳子は、源博雅によって心を救われます。

全てをここで書いてしまうのも何なので、興味がある方は、「陰陽師 生成り姫」を読んでみてください。今まで夢枕獏の陰陽師を読んだことがない方でも、序盤で安倍晴明についての紹介があるので、シリーズをすべて読まなくても大丈夫ですよ。