京都市下京区の四条寺町に冠者殿社(かんじゃでんしゃ)という小さな神社が建っています。
冠者殿社は、八坂神社の境外摂社です。
お店が年に1回大安売りをする慣習が始まったのは、この冠者殿社の誓文(せいもん)払いが起源だと伝えられています。
素戔嗚尊の荒魂を祀る
冠者殿社は、八坂神社の境外摂社なので、祭神として祀っているのは八坂神社と同じ素戔嗚尊(すさのおのみこと)です。
ただ、冠者殿社に祀られているのは、素戔嗚尊の荒魂(あらみたま)です。
荒魂とは、神霊の猛々しい働きをする神格のことで、おだやかな働きをする和魂(にぎみたま)と対をなしています。
冠者殿社の説明書によると、全国の神社の末社には和魂を祀り、荒魂は別に社殿を設けて祀ることが多いとのこと。
下の写真に写っているのが冠者殿社です。
両手を広げたくらいの幅しかない小さな神社です。
冠者殿社は、もともと烏丸高辻にあった八坂神社大政所御旅所(おおまんどころおたびしょ)に鎮座していましたが、天正19年(1591年)に豊臣秀吉の命により御旅所が四条寺町の現在地に移された時、樋口高倉に移転しました。
さらに慶長年間(1596-1615年)の始めに現在地に移され、明治45年(1912年)の四条通拡幅に伴い、旧社地より南方に後退しています。
ちなみに冠者殿社の隣に建つ建物が、八坂神社御旅所です。
誓文払い
冠者殿社で毎年10月20日に行われるお祭りを誓文払いと言います。
誓文とは、神様に誓いを立てることで、誓ったことは必ず守らないといけません。
素戔嗚尊も姉の天照大神と誓約を交わしています。
冠者殿社に祀られているのは、素戔嗚尊の荒魂だと紹介しましたが、もう1柱祀られていると伝えられています。
その1柱とは、土佐坊昌俊(とさのぼうしょうしゅん)です。
土佐坊は、源頼朝の命を受けて上洛し、源義経を暗殺しようとします。
しかし、土佐坊の計画は義経に見破られていました。
そこで、土佐坊は、神に誓ってそのようなことはしないと誓文を書いたのですが、それを破って義経を襲撃し返り討ちにあっています。
昔の商人は神様に商売ができることへの感謝と利益を得ることに対する償いの意識を持っていました。
商売上の契約は守らなければなりませんが、時には契約を破棄することもあったでしょう。
だから、商人たちは、その感謝と償いの意識により年に1回大安売りをして、お客さんに利益を還元するようになったそうです。
誓文に関わる2柱を祀っている冠者殿社には、商売をしている方は商売繁盛を、また一般の方は家内安全で過ごせるようにと、10月20日に大勢が参拝します。
歳末のバーゲンセールがあるのは、冠者殿社のおかげだったんですね。