「京都を極める」
この言葉にどういうイメージをお持ちでしょうか。
京都の歴史を知っていたり、京都の名所に何度も訪れたり、京都の有名なお店をたくさん知っていたり。
すぐに思いつくのは、こんなところでしょうか。
京都観光文化検定試験に合格することも、京都を極めると言えそうですね。
でも、こういったことは、極めるというよりもたくさんの知識を有しているとも言えます。
京都人が直截的な言い方を避ける理由
最近、「極みの京都」という文庫本を読みました。
この本の中で、京都観光文化検定試験の公式テキストの序文が掲載されています。
京都の文化・歴史を学ぶ機会と環境を提供するとともに、府民・市民の観光に対する意識向上を図っていこう
私は、京都観光文化検定試験を受けたことがないので、詳しいことは知りませんが、上の文章を読むと、京都の知識を身につけるというよりも観光に対する意識を高めていこうというのが、その目的のようですね。
著者は、京都文化の理解を深めるために深い知識が必要なのかと疑問を投げかけています。
むしろ、長い歴史の中で京都人が身につけてきた智恵や育んできた習わしにこそ、学ぶべき真の京都文化があるのではないだろうかと主張しています。
よく京都人は、言い方が回りくどく直截的(ちょくせつてき)ではないと言われることがあります。
京都人は、心を開いていない、本音がわかりにくいと、他府県の方は思うことがあるのではないでしょうか。
実は、京都人の婉曲的な表現は京都の歴史と深い関係があります。
京都は、歴史の中でたびたび戦場となり、そして、そのたびに支配者が交代してきました。
織田信長が権力を握っていたと思ったら、次の日に明智光秀が天下をとってしまう。次は、明智光秀の時代だと思ったら、今度は、2週間もたたないうちに豊臣秀吉が明智光秀を討ち取ってしまう。
このようなことが、歴史上、何度も起こると、「織田様のこと好きやわ」、「明智様はいい人やわ」なんてことを軽々しく口に出すことはできません。
京都人が、遠回しな表現を多用するのは、こういった京都の歴史があるからなんですね。
ぶぶ漬けの話
京都人は、お客さんにそろそろ帰って欲しいと思ったら、以下のようなことを言うと聞いたことはないでしょうか。
「どうどす、ぶぶ漬け(お茶漬け)でも食べはりますか」
しかし、著者は、長年、京都に住んでいて、このような現場に出くわしたことがないと述べています。
京都人は、お客さんに本当に早く帰って欲しいと思った時は、用事を思い出したからそろそろ支度をしないといけないといった感じの言い回しをします。
そして、言われた相手も、方便と知りながら、話を合わせて帰宅します。
著者は、ぶぶ漬けの話は、本音がわかりにくい京都人の言葉をそのまま受け止めたら恥をかくという神話から生まれたものだろうといったことを述べています。
京都を極めるって結局どういうこと?
「極みの京都」の中では、いろいろなお店や名所がたくさん紹介されています。
しかし、本の中に登場するお店や名所に実際に行けば、京都を極めたことになるのでしょうか。
この本を最後まで、読んだ感じでは、そうではなさそうです。
「第四章 『普通の京都』を極める」では、以下のように述べています。
京都という街は、何処をどう切り取っても見所になり、「さすが京都」と思わせ、即ち、京都を訪ねたとして、何も特別な場所や店でなくても、名もなき「普通の京都」を訪ね歩くことで充分楽しめるということが、存外知られていないのである。
結局、京都を極めると考えること自体がおかしな話で、ただ、京都に訪れた時は、京都の街を歩き、お腹がすいたら近くのお店で食事をし、商店街で珍しいものを見つけたらお土産に買って帰る、そんな当たり前のことをすることで、京都の雰囲気を楽しめるのではないでしょうか。
私なんて、京都をよく散策しますが、お店に入って食事をすることなんて、ほとんどありません。
お土産を買って帰ることもあまりありません。
でも、京都を歩いているだけで、様々な景色が目に入り、楽しくなってきます。
きっと、どんなところに行っても、京都と同じように楽しく感じると思います。
「極みの京都」の最後で、「京都旅を成功させるために知っておくべき五つのこと」が書かれています。
その中のひとつを紹介しておきます。
京都人は、「京料理」も「おばんざい」も、お店では食べません
京料理もおばんざいも、京都らしさを感じるもののように思いますが、こういった言葉を前面に出しているお店では、高くつくだけで満足できないというのが著者の主張です。
そもそも京料理のお店で「京」という言葉を使うことはありません。
安く美味しいお店を見つけるコツは、京都らしくないお店を選ぶことです。
これは、満足のいく京都旅行をするなら、過度に京都らしさを求めない方が良いということでもあります。
京都を極めようと思わないことが、京都を楽しむコツなのではないでしょうか。