京都市東山区の八坂神社には、素戔嗚尊(すさのおのみこと)が祀られています。
素戔嗚尊は、八岐大蛇(やまたのおろち)を退治したことで知られていますね。
高天原を追放され出雲国へ
素戔嗚尊は、天照大神の弟です。
彼は、天照大神が住む天の世界の高天原(たかまがはら)で乱暴な振る舞いをしたことから追放されてしまいました。
追放された素戔嗚尊は、出雲国の肥川(ひのかわ)の辺りをさまよい歩きました。
何しろ見知らぬ土地なので、どこをどう歩けばよいかもわかりません。
そこで、川辺にたたずんで、どうしたものかと考えていると、1本の箸が流れてきました。
これはきっと上流に人が住んでいるに違いないと思った素戔嗚尊は、川上に向かって歩き始めます。
すると予想した通り、そこには1軒の家がありました。
お腹が空いていた素戔嗚尊は、とにかくこの家を訪ねて、何か食べさせてもらい、一晩泊めさせてもらおうと思い、家に近づきます。
すると、中からすすり泣く声が聞こえてきました。
素戔嗚尊が中の様子をうかがってみたところ、どうやら3人の家族が泣いているようです。
素戔嗚尊は、中に入るべきかどうか迷いましたが、日も暮れていくので、ここは思い切って中に入ることを決心しました。
見知らぬ土地で道に迷ってしまったので一晩泊めて欲しいと、素戔嗚尊が住人に頼んだところ、家の主人は快く彼の願いを聞き入れ、宿泊させてあげることにしました。
宿泊を許された素戔嗚尊は、家の中に入ります。
そして、先ほどから家族が泣いているのを外からうかがっていたことを告げ、自分に何かできることはないかと話しかけました。
家の主人の名は、足名椎(あしなづち)といい、妻は手名椎(てなづち)といいます。そして、夫婦の娘の名は櫛稲田姫(くしいなだひめ)といいます。
足名椎の話によると、夫婦には8人の娘がいましたが、毎年、山から八岐大蛇がやってきて、1人ずつ食べていき、とうとう櫛稲田姫だけとなりました。
櫛稲田姫も今年に八岐大蛇に食べられてしまうことから、家族で悲しんでいたところ、そこに素戔嗚尊がやって来たということです。
八岐大蛇退治
家族の話を聞いた素戔嗚尊は、それなら自分が八岐大蛇を退治しようといい、そして、退治できた時には櫛稲田姫と結婚したいと告げました。
これを聞いた夫婦は大変喜びましたが、娘を結婚させるには、彼の素性を知る必要があります。
そこで、素戔嗚尊が自分は天照大神の弟だと告げたところ、夫婦はそのような高貴な方になら娘を嫁がせることができると喜び、八岐大蛇を退治してくれたら娘を嫁がせると約束しました。
そうと決まれば、これから作戦会議です。
素戔嗚尊は、夫婦に八塩折(やしおおり)の酒を作り、それを家の周囲に設けた垣根の8ヶ所の門の前に桶に入れて置くように命じます。
準備が完了したところで、素戔嗚尊と夫婦は八岐大蛇が現れるのを待ちます。
すると、8つの頭を持った大蛇が家の前にやってきて、8つの桶にそれぞれ頭を突っ込み、酒を飲み始めました。
そして、酒を飲みほした八岐大蛇は、酔っぱらって寝込んでしまいます。
これを見た素戔嗚尊は、十拳剣(とつかのつるぎ)で八岐大蛇を斬り刻んでやっつけました。
すると、斬られた八岐大蛇の体からは、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)が出てきました。
後に素戔嗚尊は、この天叢雲剣を天照大神に献上し、三種の神器のひとつとなります。
八岐大蛇を退治した素戔嗚尊は、約束通り櫛稲田姫との結婚を許され、出雲国の須賀に宮殿を建てました。
八坂神社に素戔嗚尊が祀られている理由
素戔嗚尊が八坂神社に祀られているのは、祇園信仰と素戔嗚尊が融合したことが理由とされています。
祇園信仰は、釈迦が説法を行った祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の守り神である牛頭天王(ごずてんのう)を信仰するものです。
牛頭天王は疫病を鎮める神さまとされています。
ある時、備後国に住む蘇民将来(そみんしょうらい)の家に旅人がやってきて、彼はあつくもてなしました。
その数年後に再び旅人がやってきて自分は牛頭天王だと告げ、疫病除けの茅の輪を与えました。
そして、牛頭天王は去り際に自分は素戔嗚尊だとも語ったといわれています。
この話から、牛頭天王と素戔嗚尊が同一とされるようになりました。
八坂神社の創建には諸説ありますが、貞観18年(876年)に興福寺の僧円如(えんにょ)が牛頭天王を迎えて堂宇を建てたのが始まりとされています。
この頃の京都では疫病が流行していました。
それを鎮めるために行った行事が、祇園祭の起源といわれています。
祇園祭は八坂神社の祭礼で、今も7月になると行われていますね。

八坂神社の本殿
牛頭天王が山中をさまよった話は、実は中国の伝説で、高天原を追放され出雲をさまよった素戔嗚尊とイメージが被ることから、両者が同一視されるようになったともいわれています。
素戔嗚尊の八岐大蛇退治の話がなければ、もしかしたら、素戔嗚尊は八坂神社に祀られていなかったかもしれませんね。
なお、八坂神社の詳細については以下のページを参考にしてみてください。