坂本竜馬はなぜ近江屋で暗殺されたのか?

坂本竜馬の暗殺については、その実行犯が誰だったのかということに関心が集まりますが、もうひとつ不思議に思うのが、なぜ暗殺された時、近江屋にいたのかということです。

近江屋跡は四条河原町の交差点を少し北に歩いたところにあり、そこから東に5分も歩けば、土佐藩邸跡があります。

坂本竜馬は、土佐藩出身だったのですから、わざわざ近江屋に宿泊しなくても、土佐藩邸にいれば良かったのではないかと思ってしまいます。

海援隊の活動拠点は酢屋

坂本竜馬は、幕末に様々な活躍をみせましたが、彼が暗殺された年の慶応3年(1867年)には、京都で海援隊の仕事をしていました。

海援隊は、土佐藩が支援してできた海運業と商社のような仕事をしていた組織です。

そのトップだったのが竜馬で、彼が海援隊の仕事を京都でする時の京都本部としていたのが、三条大橋からほど近い材木商の酢屋でした。

酢屋

酢屋

酢屋はまた竜馬の宿舎としても利用されていました。

その酢屋から南に5分程度歩けば土佐藩邸があります。

土佐藩邸跡

土佐藩邸跡

竜馬が海援隊の活動の拠点を酢屋に選び、そこで寝泊まりしていたというのは、普通に考えると不思議なことです。

わざわざ土佐藩邸の近くの材木屋を拠点にしなくても、藩邸内で業務を行えば良かったわけですからね。

坂本竜馬が土佐藩邸で業務を行わなかった理由

しかし、竜馬は、土佐藩邸ではなく、近くの酢屋を活動拠点に選びました。

その理由として考えられるのは、竜馬が土佐藩を脱藩していたため、藩邸に入ることができなかったというものです。

確かに竜馬は脱藩をして全国各地を飛び回っていたので、一理ありそうですが、しかし、慶応3年には彼は脱藩の罪を許され、土佐藩士に戻っていました。

なので、この頃の竜馬は、誰にとがめられることもなく、土佐藩邸に入ることができたわけです。

それにもかかわらず、酢屋を宿舎としたのは、海援隊の活動上、土佐藩から自由でありたかったからだという説があります。

これについては、高野澄氏の著書「京都の謎 幕末維新編」で以下のように述べられています。

土佐藩は薩摩や長州の後についていちおうは倒幕勢力ということになっていたものの、薩摩や長州からは警戒の目で見られていた。幕府に大政奉還を進言して承知させた経過からして、「土佐は平和路線を放棄してはいないのではないか」といった疑惑が消えないのである。
(中略)
龍馬は行動の自由がほしい。幕府はもちろん、薩摩や長州から疑惑の目で見られるのも避けたい。それには土佐藩邸ではなく、土佐海援隊の本部にいるほうが都合がいいのである。

つまり、坂本竜馬は、自分が描いている構想を実現するためには、土佐藩という組織と一体であると思われては都合が悪かったということですね。

幕府とともに平和路線を進むのか、それとも薩摩藩や長州藩とともに武力倒幕を目指すのか、その時の情勢に応じて柔軟に動くことができるようにするためには、土佐藩と海援隊は別の組織であるとしておきたかったのでしょう。

これが、坂本竜馬が土佐藩邸で海援隊の業務を行わなかった理由だと考えることができます。

しかし、実際のところがどうだったのかは、竜馬が暗殺されてしまったので、わかりませんね。

なぜ酢屋ではなく近江屋にいたのか?

では、坂本竜馬が、土佐藩邸ではなく酢屋を活動の拠点とし宿舎としていたのに、なぜ近江屋で暗殺されたのでしょうか。

竜馬が暗殺される1ヶ月ほど前、徳川慶喜が政権を朝廷に返上する大政奉還を行いました。

大政奉還は土佐藩から徳川慶喜に提案したもので、その仕掛け人は坂本竜馬でした。

この情報が京都の様々なところに流れたことで、竜馬自身も自分の身に危険が迫っているということに勘づきました。

そこで、酢屋とは別の場所に寝泊まりする必要があると考えます。

しかし、海援隊の活動のことを考えると、土佐藩邸で寝泊まりすることはできません。

この頃の海援隊は、政治的に重要な立場となっており、その発言力は土佐藩以上のものだったといわれています。

そういう状況で海援隊のトップの坂本竜馬が、土佐藩邸に宿泊するということは、海援隊の評価を下げてしまうおそれがあります。

そして、選ばれたのが、醤油商の近江屋でした。

竜馬の近江屋での寝泊まりは、刺客に襲われることを警戒して造られた土蔵の中の密室でした。

いざというときのために抜け道も造られていました。

しかし、慶応3年11月15日に坂本竜馬は中岡慎太郎とともに近江屋で暗殺されてしまいます。

この時、竜馬は風邪をひいていて、母屋の2階の部屋にいました。

もしも、いつものように土蔵の密室にいれば、刺客の気配に気づいて抜け道からうまく逃げ出せたかもしれません。

風邪をひかなければ、この時の暗殺はなかったのかもしれませんね。

参考文献

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