神社にお参りをする時の作法は、二拝二拍手一拝です。
すなわち、2回お辞儀をして、柏手をパンパンと2回打ってお願いをし、最後にもう1回お辞儀をするということです。
どこの神社もこの作法でよいのですが、島根県の出雲大社では、二杯四拍手一拝となります。
なぜ、出雲大社では柏手を2回ではなく4回打たなければならないのでしょうか。
それは、どうやら祭神として祀られている大国主命(おおくにぬしのみこと)と関係があるようです。
国譲りの後、縁結びの神さまとなった大国主
大国主は、古代に出雲(島根県)、伯耆(ほうき)と因幡の2国(鳥取県)、山陰から北陸、信濃(長野県)までを統治していました。
その名のとおり、大きな国の主だったわけですね。
この大国主に対して、天照大神が、全ての国を自分に譲るようにという使者を遣わします。
そのような使者がいきなり来ても二つ返事で譲りますなんて言えないわけで、大国主は、使者を懐柔して何とか国を譲ることを拒みます。
しかし、天照大神は、さらに建御雷(たけみかづち)を使者として遣わし、国譲りを強く要求してきました。
答えに困った大国主は、自分だけで決めることはできないので、子の事代主(ことしろぬし)と建御名方(たけみなかた)の意見も聞いてほしいと建御雷に言います。
そこで、建御雷は、まず事代主を訪ね国譲りを迫ったところ、事代主は、海に身を投げてしまいました。
さらに建御名方の許にも訪れると、彼が建御雷に力比べを挑んできました。
建御雷は、この力比べに勝ち、建御名方は、諏訪(すわ)から外に出ないので、命だけは助けて欲しいと懇願したので、それを許すことにしました。
そして、建御名方は、諏訪大社に祀られることになります。
その後、建御雷は再び大国主の許を訪れ、さらに天照大神は、神の代理として高御産巣日(たかみむすび)も遣わしました。
黄泉(よみ)の世界に行き、そこで政務をとれば、宮殿を造ることを約束するから、国を譲るようにという要求をついに大国主は承諾します。
そして、大国主は、あの世に行き、そこで人間の運命や縁と関わる霊界の政治を担当することになりました。
これが、大国主命が、縁結びの神さまとされる理由なんですね。
四拍手は死拍手?
大国主が、あの世に行ったときに建てられた宮殿が、出雲大社です。
出雲大社には、大国主の他に御客座五神と呼ばれる五柱の神さまも祀られています。
その五柱は、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、神産巣日神(かみむすびのかみ)、宇麻志阿斯詞備比古遅神(うましあしかびひこぢのかみ)、天之常立神(あめのとこたちのかみ)です。
出雲大社に参拝すると、大国主ではなく、御客座五神を拝むことになるそうです。
もちろんお参りするときは、二拝二拍手一拝ではなく、二拝四拍手一拝です。
出雲大社だけ、二拍手ではなく四拍手となるのは、それが死拍手という意味を持っているのではないかと、井沢元彦氏の著書「逆説の日本史1」の中で記述されています。
大国主の国譲りは、話し合いによってなされたことになっていますが、実は、そこには天照大神との間で激しい争いがあり、不本意のまま黄泉の国に旅立ったのではないかと考えているわけです。
おそらく、オオクニヌシは激しい怨念を抱いたまま、この世を去ったはずだ。
昔の人々の考え方では、霊はあくまで存在する。だから、激しい怨念を抱いたまま死んだオオクニヌシは、怨霊(怨念を抱いた霊)として、この世に復讐するに違いない。すなわちタタリである。(198ページ)
このように考えると、出雲大社を建てた理由は、大国主の怨霊を鎮めるためだったということになります。
同じようなことは、平安時代にもあります。
早良新王(さわらしんのう)や菅原道真など、非業の死を遂げた人々の怨霊を鎮めるために上御霊神社(かみごりょうじんじゃ)を創建したのがそれで、御霊信仰といわれています。
古代の人々も怨霊の祟りが恐ろしかったのでしょうね。
出雲大社に御客座五神が祀られているのは、大国主を監視するのが目的とも「逆説の日本史1」の中では、述べられています。
大国主が、あの世からこの世に戻ってきて、地震、洪水、疫病などの災いをもたらすと困るからです。
さらに参拝者が、四拍手を打つのは、「死」を大国主にわからせるためで、それは死拍手ということになります。
オオクニヌシの「死」こそ、この世を治める大和朝廷にとっては、何よりもめでたいことなのだ。オオクニヌシが自分の「死」を自覚せず、この世に戻ってくること、それが一番恐ろしい。(206ページ)
京都の神社にも祀られている大国主命
大国主命を祭神として祀っている神社は、京都にもあります。
その数は、かなり多いですね。
特に縁結びで有名なところに、よく祀られています。
清水寺の境内にある地主神社には、大国主命の像があります。
大国主命は、大黒さまとしても親しまれていますね。
八坂神社の大国社の前にも大国主命の像があります。
一緒にいるのは、因幡の白兎です。
因幡の白兎が、ワニに皮をむかれて泣いているところへ大黒さまが通りかかり、「真水で体を洗って、蒲(かま)の花を摘み、その上に寝転ぶといい」と言いました。
そして、言われたとおりにした白兎の体は、元に戻ったと伝えられています。
出雲大社では、四拍手打つわけですが、大国主命が祀られている神社でも四拍手打つ必要があるのでしょうか。
今まで四拍手打ってお参りをしている人を見たことがありません。
大国主命の怨霊を鎮めるなら、四拍手ということになりそうですが、出雲大社以外では、そのようにする必要はないのでしょうかね。
なお、四拍手打つ神社は、他に大分県宇佐市の宇佐神宮もあります。
今は、出雲大社と宇佐神宮だけが四拍手ということになっており、それ以外は二拍手で良いみたいですね。
でも、大国主命にお参りするときは、四拍手打たないと祟られそうで不安です。